本作は「バークリーの幻の作品」という触れ込みで紹介されるに至ったのだが、何でも変名で書かれていて、死後10何年経つまでバークリーの作だと認識されてこなかったんだそうな。それもおかしな話で、こんな作品が書ける作家はどう考えても他にいない、バークリー節全開のあたし好みの作品である。
バークリー=黄金期の本格推理の巨匠、ではあるが、彼の作品は決して「パズラー」なんてものではない。事件が起こる以前、登場人物=犯人候補がひと通り紹介される「導入部」が、そこだけ取り出してみても単独の作品として楽しめる水準なのだ。
本作は最初の1頁から、一気に物語に引き込まれる。主人公は貴族の一人息子で、一度も働きに出たこともなく、優雅な独身生活を送っていたのだが、不況のあおりを受け資産は底を尽き、自らが他人の邸宅で従僕として雇われる身に一気に没落してしまう。雇われた先のレディ・スーザンの屋敷では、折しもパーティーに向け、招待客が続々と到着するところ。そこでスティーヴンは、かつての恋人・ポーリーンと運命の再会を果たす。その横には、年齢の離れた見るからに胡散臭い婚約者の姿が。
二人が再び惹かれ合い、探偵ごっこをしながら事件の謎を説き明かしていくのと並行して展開するラブロマンスが、何とも微笑ましいと同時に、本作一番の読みどころ。一文無しの従僕に過ぎないスティーヴンは、いかにして彼女の愛を勝ち取り、二人の生活を支えていくのか。
勿論、謎解きの方もなかなかに興味深い。招待客のひとりが「私は人を消すことができる」と宣言して開いた降霊会で、同じく招待客であるシシリー嬢が、本当に姿を消してしまうのだ。主人公の迷探偵ぶりで事件が二転三転するのはバークリー一流の展開だが、推理小説とラブロマンスの要素を絶妙のバランスで取り入れ、軽いタッチで、万人が楽しめるとっつきやすい作品に仕上げている。
全部ひっくるめて、エンタテインメントとして☆☆☆☆(4.0)。謎解きで読ませる傑作「第二の銃声」とはまた違う、これもまたバークリーの魅力。